2021年08月20日

基礎なくして応用なし

以前に現在作業中のV-MAX1700のエンジンを組む際に、ピストンをシリンダーに打ち込んだ際の感覚が渋く、何だかシリンダー壁面とのフリクションが非常に大きそうだぞ・・・と、ちょっとした問題にぶつかった事があるのですが、前回1/4mileを9秒台目標に新規で製作したV-MAX1200のエンジンとは違って、こちらのV-MAX1700のエンジンは前出のV-MAX1200のエンジンを以前に担当していたショップさんが製作したモノで、オーナーさんからエンジンの中身がどうなっているのか分からないのでこちらで再度バラシて組み直して欲しいとのご依頼を頂き、加工などは前出のショップさんで既に行っている予定なのでこちらでは単純な組み直しの作業で終わる予定で進めていましたが、1200も然ることながらこちらの1700にも問題が山積みで、この渋い状態のまま組み付けてあったとはいえ、うちでこのまま組む事はしたくないなぁ・・・と。

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そこでコンロッドやバランサーを組み付けてクランクの軸抵抗を確認してみると、いくらケースをしっかり組んでいないからメタルの円が出ていないと言えど、抵抗が650g以上あって、経験上これはいくら何でも抵抗が大き過ぎるだろうと。

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そこで再度バラシて検証したところ、フリクションが大きくなっている原因が判明。

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通常、ピストンリングにはトップとセカンドリングの他にオイルリングを構成する3本のリングの計5本で構成されていますが、今回ピストンリングを全て取り外してみるといつもよりも一本多い。

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初めて見るタイプだったので最初は ” 何だこれ?” と不思議に思いましたが、よくよくピストンを観察してみるとオイルリング溝をカットするようにピンボスが加工されていて、ここの切れ目を補う為に普段見慣れない余分な1本が組まれているのだという事が分かりました。

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一応念の為に調べてみると、正式名称は ” OILring Support Rails ” 通称OSRと言うようで、画像のようにOSRが入る事で、オイルリングの合口がピンボス部分の切れ目から脱落しないように橋の役割を果たすとの事で、

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なるほどね〜と、このリングの意味合いは理解できたのですが、

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このOSRの理解が出来たところでオイルリング溝の寸法とOSRを含むオイルリング高さの寸法が微妙にキツイ事で、オイルリングがフリーに動けずガチガチな事がシリンダーとの高フリクションを生んでいる原因という事も判明しました。
そこで加工ですが、恐る恐る手作業でOSR側を厚みを薄くする方向で研磨して、少し磨く ⇒ 計測 ⇒ 実際に溝に当てがって動きを確認する ⇒ 振り出しに戻る。を繰り返して、リングの加工が完了。

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そして再度コンロッドなどを組み付けて軸抵抗を測ってみると当初の650g ⇒ 420g 程と、約35% のフリクションの低減が行えました^^
当然、今回の例では損失馬力の低減を行った事による性能向上が見込める訳ではなく、ただ単に本来の状態に戻しただけです。。。

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ちなみに今回のこのピストンですが、右の純正に比べて左の社外ピストンのシリンダー壁面とのクリアランスが非常に大きい事が見て取れると思います。
これは社外ピストンでは一般的な、熱による膨張率を事前に計算して、高負荷時に肉厚のあるピストンクラウン部分が膨張してもシリンダー壁面とのクリアランスが保たれるよう計算されたもので、今回のリングに関して一瞬、冷間時と温間時でクリアランスが変わる事を事前に考慮しt・・・と頭を過ったものの、リング溝の裏側の肉厚が薄く、熱膨張の影響はあれだけガチガチだったものが緩々になるほど受けないし、そもそもトップリングもセカンドリングも冷間で緩々なのだからやはりあのオイルリングはおかしいと判断して手直しをして組み付けを行いました。


ちなみにこれは良くある事なのですが、
例1:有名な〇〇さんが言ってた
例2:雑誌にそう書いてあった
例3:ネットに書いてあった

以前にも何度か書いていますが、このブログに書いてある事は合っているかも分かりませんので暇つぶし程度に見て下さいとお願いしておりますが、何が本当で何が嘘もしくは間違っているかを判断するのは非常に難しい事だと思います。
特にエンジニアの世界では合ってるだの間違っているだのという考え方自体が少し違く、結果が出ているか出ていないか、更にその結果の難易度などが答え合わせの指標となりますので更に難しいのですが、

そのような事を踏まえて先ほどのこちらのピストンメーカーがSNSにアップした記事の自動翻訳の訳ですが・・・
OSR
These dimples ALWAYS face down and OSR under NO circumstances should touch cylinder walls.
訳:これらのエクボは常に顔を下げ、OSRはNOの状況下でシリンダーウォールに触れるべきです。

パッとこの訳を見て実際にピストンに組まれたOSRもガチガチでリング抵抗も高い。
けど良く分からない日本語だけどOSRはシリンダーウォールに触れるべきって書いてあるからこのままで良いのか・・・。とそのまま組んだらアウトです。

実際の訳は、
このディンプルは常に下向きで、OSRは絶対にシリンダーウォールに触れてはいけません。
と真逆の訳だったりしますので、もしかしたら翻訳ソフトが間違っているのではないか?と、常に自分の経験則に従って曖昧な判断をしないようにします。

少しだけ毒を吐かせていただくと、よくチューニングって言葉を聞きますが、Tuningは調律という意味で、少し話を変えて・・・料理の基礎が分かっていない人がミシュランに載っているような三ッ星シェフの最高級レシピをネットで見つけて、そのレシピ通りに書いてある事を全く同じ手順で進めたとしても最高級の味にはならないはずです。
食材のサイズや状態に合わせた材料の投入タイミングに火加減、味付けの微調整など、長年の修業や研究をした基礎が有るからこそ常にベストな味が提供できる訳で、レシピに書いてある事を真似ても何となく似た物が出来る程度かと思います。
これは機械などのメンテナンスでも同じ事で、以前に「中古エンジンのメタル類をサービスマニュアルの勘合表通りに組んでも意味が無い」と書いて軽く反感を喰らいましたが、サービスマニュアルに記載されている数値などは全て新品時の数値であり、新品部品だけで組むなら適用するかもしれませんが、走行距離を重ねたオーバーホールを必要とするような消耗した部品には当てはまらない事も多く存在します。

具体例は下記URLで記事にしています。
http://secretbase-racing.com/archives/2017-07-15.html

問題なのは、料理であればお客さんは味で判断が出来ますが、機械の性能に対する判断となると何やら小難しい理屈っぽい事を並べられてしまうと一般の方には早々に判断が出来ず、これはそうゆうものなんだ!と言いくるめられてしまったり、雑誌に出ているショップさんであれば絶対に間違い無いと信じ込んでしまったり・・・。
今は本当に良い時代でネットで何でも情報が得られますので派手であったり大きい部分に目が行きがちですが、小さな違和感を感じる事も大切かと思います。
まぁ自分に害が無ければどうでもいい事なのですけど、前任者さんの施した問題箇所が多く、そこを見抜けなければ最悪一発アウトな地雷だらけなもので・・・。




akane380 at 03:52│Comments(7)│ │V-MAX1700 ターボ製作 

この記事へのコメント

1. Posted by 砂粒   2021年08月20日 16:24
地雷だらけで何がなんだか。。。
ほんの一部の作業を体験させて貰いましたが、とても時間も手間も掛かっていくのに、元に戻ったと言うのも。。。
料理に例えた事が、現状の憤りを漂わせます。
2. Posted by Gabu   2021年08月21日 02:32
>砂粒さん

お疲れ様です^^
砂粒さんの1200の時もそうでしたが、1700も答え合わせの出来ない間違い探しをやらされているようで、通常の何倍も労力が掛かって気が滅入ります^^:
先日もまたトラップに引っ掛かってしまい性も根も尽きそうになりました。
3. Posted by エンドルフィン   2021年08月21日 16:07
5 お久しぶりです!そしてお疲れ様です(^-^) バテてませんか?自分は1度ダウンしました(-。-; 今回も1/3も理解してないくせに「へ〜!!、ほ〜!!」とうなずいて読んでました。Gabuさん凄いッス(`_´)ゞ
あと、ちょっと質問なんですがZX-12Rを1年ちょいぶりにオイル交換などして車検入れて乗ったのですが走行中だとクラッチ切ってもシフトダウン出来ないんですよシフトペダルが硬くて降りないって言うか。かなり減速すると降りてシフトダウン出来るんですが。これ何かぶっ壊れました?
4. Posted by Gabu   2021年08月22日 02:34
>エンドルフィンさん

お久しぶりです^^
クラッチの件ですが、症状的にはクラッチ板が張り付いて動力が抜けていない時に起きる症状ですが、普通にニュートラルから1速に入れて問題なく発進が出来る状況であれば、一度クラッチワイヤーの張り具合をキツめ( クラッチレバーを遠く )にして再度チェックしてみて貰えますでしょうか?
以上、宜しくお願いします^^
5. Posted by エンドルフィン   2021年08月22日 10:06
5 有難うございます!雨で走れないので後日やってみます😁無理なさらず作業して下さいね‼️
6. Posted by エンドルフィン   2021年08月22日 15:40
5 ちょっと陽がさしたので走って来ました。改善しました!!有難う御座いました‼️忙しい中、回答して頂き感謝しております。
7. Posted by Gabu   2021年08月23日 02:16
>エンドルフィンさん

お疲れ様です^^
クラッチの問題が解決出来たようで安心しました。
また何かありましたらお知らせください^^

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